ファンファーレオルケストの起源が知りたくて

昨日、私が所属するハッピーペンギンブラス主催のファンファーレオルケスト体験会について公式から告知がありました。
たくさんの方から反応をいただいているようでうれしいことこの上ないです。
主催側も(私含め)ファンファーレオルケストでの演奏は未経験なのですべてが手探りですが、最善を尽くしたいと思います。
2月11日(金・祝)東京で開催予定なので、ぜひ来ていただきたいです。来年の手帳にメモしておいてください。来年の手帳をまだ買っていない方はどこかに書いておいてください。

基本的な編成は

  • ソプラノ~バリトンサクソフォン
  • Esコルネット(万が一「ソプラノフリューゲルホルン」をお持ちの方がいれば大・大・大歓迎です!)
  • フリューゲルホルン(たくさん)
  • トランペット
  • ホルン(フレンチ(in F)/テナー(in Es)どちらでも)
  • トロンボーン
  • バリトンホルン
  • ユーフォニアム
  • チューバorB/Esバス
  • パーカッション

です。中低音についてはC/B、ト音/へ音どちらのパート譜もご用意できる可能性があるのでお気軽にご参加ください。
(まだ曲決まってないから確実なことは言えませんが…楽譜による)

とにかくフリューゲルホルン吹きさんに集まっていただきたいです、何卒よろしくお願いします!押し入れにフリューゲルホルンが眠っている方、そういえばちょうどフリューゲル欲しかったんだよな、という方、お待ちしております。
そしてブラスバンド主催の体験会なのでサックス吹きさんが集まるかどうかも心配しております。ファンファーレオルケストのサックスは個人的に花形パートだと思っているので、サックス吹きさんはぜひファンファーレオルケストの響きを一度体感していただきたいです。

体験会に参加するにあたって一番の疑問は「ファンファーレオルケストって何…?」というところかと思います。ざっくりいうと、「上記のような編成を持つ、主にオランダ・ベルギーで発展した吹奏楽の形態の一つ」です。オランダ語圏では“Harmonie”(日本でも一般的な吹奏楽編成)、“Brassband”をセットにした“HaFaBra”という言葉もあります。出版社のHAFABRA Musicの名前はこれが由来ですね。
オランダ・ベルギー以外にも、フランス語圏などに“Fanfare”と呼ばれる管楽合奏形態が存在します。ただしベルギーのワロン地域含め、編成は必ずしも上記に沿ったものではなく、フルートやクラリネットを含む“Harmonie-Fanfare”と呼ばれる編成だったり、もっとラフに管楽器バンド全体を指す「ブラバン」的な使われ方をしているようです。スイスのフランス語圏に至ってはほぼブラスバンドの編成を“Fanfare”を名乗るバンドがありました(どうやらテナーホーンパートに一人だけアルトサックスがいるらしく→Fanfare Echo du Rawyl Ayent)。
オランダ語圏では「ファンファーレオルケスト」“Fanfareorkest”と呼ばれることも、単に「ファンファーレ」“Fanfare”と呼ばれることもありますが、私は「オランダ語圏の編成」ということを強調するために「ファンファーレオルケスト」と呼ぶことが多いです。

そんなファンファーレオルケスト、その起源が結構あいまいであったりします(他の吹奏楽編成だってそんなにはっきりした起源があるわけでもなかろうが…)。アドルフ・サックスがサクソルンの特許を取得したのが1843年、サクソフォンの特許が1846年なので、現在の編成に近づいたのは少なくとも19世紀半ばのこと。これは吹奏楽でも同じことが言えるでしょうね。私が知っている中で創立がもっとも古いファンファーレオルケストは1806年創立ですが、ファンファーレオルケストの編成になったのは1860年のことです。(Koninklijke Stadsfanfaren Izegem)

たとえば、日本初のファンファーレオルケストにして現在も活動している洗足学園音楽大学ファンファーレオルケストは、演奏会のフライヤーに「アドルフサックスが考案した」と書いています。
同じような記述をアムステルダム音楽院のサイトで見つけました。
Weekend van de Wetenschap
過去に開催されたアドルフ・サックス生誕200周年記念イベントの概要。
「アドルフ・サックスが1943年にサクソルンの特許を取得し、自身の発明を宣伝するためにFanfare SaxというファンファーレとOrchestre-SaxまたはSociété de la Grande Harmonieという吹奏楽団を立ち上げた」というリード文があります。この記録がどこからの引用かわからないのですが、たぶんどこかに記録が残っているんでしょう。

Jana Houben氏による修士論文“Het bloed van de blaasmuziek”(2017)には、また異なるファンファーレの起源が記されています。(ユトレヒト大学PDFダウンロードページ)

  • 最初のファンファーレオルケストは、19世紀初頭フランスの騎兵隊音楽隊(出典:Luc Vertommen “Some Missing Episodes in Brass (Band) History”(2012))
  • 16本のトランペット、6本のホルン、3本のトロンボーン
  • オランダの軍事組織と軍楽隊はナポレオン時代にフランス式に変えられた
  • 市民にファンファーレ/吹奏楽団が浸透したきっかけは「金管楽器がピアノやオルガン、弦楽器より安価だった」「労働者にクラシック音楽を広める手段だった」「他の人と楽しめる数少ない娯楽の一つだった」
  • 吹奏楽は自治体や職場で奨励されていて、式典や祝典には吹奏楽の演奏が欠かせなかった
  • 19世紀にファンファーレオルケスト作品の作曲に力を入れたのはポール・ジルソンやペーテル・ブノワなど
  • ジルソンはサックスと金管楽器を一緒にすると響きが悪くなると考えて、“fanfare pure”(金管楽器だけの編成)に曲を書いた。ジルソンによると、サクソフォンを使ったファンファーレのための最初の曲はブノワの「幻想的序曲」(1856)

など。

ペーテル・ブノワ(1834-1901)はベルギーでの「オランダ語復興運動(フランデレン運動)」に共感し、オランダ語の歌曲の作曲に力を注ぎ、フランドル楽派ならぬ「フランデレン楽派」の確立を目指した人物。元々フランス語のPierreだった自分の名前をオランダ語Peterに変えるまでの徹底っぷり。彼がファンファーレオルケストのために書いた「幻想的序曲」の原題が“Ouverture Fantastique”とフランス語なのは、当時22歳のブノワがまだパリで成功することを夢見る若者だったからなんでしょうか。

ポール・ジルソン(1865-1942)は「ベルギー吹奏楽の父」とも呼ばれる、ベルギーにおける吹奏楽作曲のパイオニアです。彼が勤めていたブリュッセル音楽院には「ファンファール・ワグネリアンヌ」という“fanfare pure”の講座があり、彼は受講する学生たちのために作曲をしていました。また、当時のベルギー・ギィデ吹奏楽団とタッグを組んで自身の吹奏楽オリジナル作品や管弦楽作品のアレンジを発表し、弟子にも「吹奏楽曲を作るか、管弦楽を編曲しなさい」と言って聞かせていたような人でした。
ジルソンは金管楽器のみのファンファーレを“fanfare Pure”、サクソフォンを含むファンファーレを“fanfare mixte”と区別していました。彼の“fanfare Pure”のための作品に「交響的変奏曲」“Variations Symphoniques”という曲があるのですが、これはのちに“harmonie”、“fanfare mixte”、さらに交響楽団のために編曲された、という記録が残っているので(Gaston Brenta, Paul Gilson(La Reneissance du Livre, 1965))、ジルソンが“fanfare pure”を好んでいたと言っても、実際には“fanfare mixte” – 現在のファンファーレオルケストに近い編成でも演奏されていたのだろうと思います。

現存するファンファーレオルケストは、前述のStadsfanfaren Izegemのように最古参のバンドもあれば、比較的若いバンドまで幅広く存在します。ファンファーレオルケストがいつの時代も更新され続けてるわかりやすい証拠だと思います。

前回WMC(世界音楽大会)のファンファーレ部門チャンピオン「ケンペンブルーイ・アヘル」(ベルギー)は1862年創立。

同じくWMCで何度かチャンピオンに輝いている「フリスク・ファンファーレオルケスト」(オランダ)は1983年創立。

(このハリー・ヤンセンのマーチいいな…)

つい昨日、オランダブラスバンド選手権でチャンピオンになった「ソリ・ブラス」は元々ファンファーレオルケストで、1956年にブラスバンドに鞍替えしたバンドです。1936年創立。

オランダ、ベルギー両国のリンブルフ州で、国境をまたいで活動する「リンブルフス・ファンファーレオルケスト」は2002年創立。

などなど。

ちなみに日本初のファンファーレオルケストである洗足ファンファーレオルケストが立ち上げられたのが2004年のこと。まだ17年と思うか、もう17年と思うか。
ファンファーレ文化圏でファンファーレについて話題が上がるとき、「日本にもプロジェクトバンドがある」ということが書いてあったり、話されていたりします。ファンファーレオルケストに取り組む一人として、ファンファーレの「編成」だけでなく、ファンファーレの「歴史」「文化」にも誠実に向き合って活動できたらいいなと思っています。

例によってめちゃ長くなってしまった。(ジルソン先生のくだり…)
ファンファーレについてはまだ書きたいことも調べたいこともたくさんあるので、別の日にまた何か書きます。

VLAMOオープンファンファーレ選手権で演奏されるはずだった曲
↑2020年3月に中止になってしまったベルギーのファンファーレオルケストの大会について書いたやつ。来年3月に同じ課題曲で行われるはずです。今のところ。

花月こころ

ベルギー近現代音楽が主な狩場。最推しはヴァンデルローストとポール・ジルソン。ブラスバンドでコルネット。

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