【CD】守護天使~ケヴィン・ホーベン吹奏楽作品集

ケヴィン・ホーベンの作品を本格的に聴くようになったのは、去年「天使の飛ぶところ」”Where Angels Fly”を知ったのがきっかけ。

 

 

ちょうどベルギーの作曲家をがむしゃらに漁り始めた時期で、ポール・ジルソンの「祈り」”La Prierè”を曲のモチーフに使っていることを知って飛びつきました。結局この曲について「吹奏楽見聞録」に書くまでになります。執筆のために執拗に繰り返し聴いて、だんだん耳がホーベン・サウンドを求めていくように…。

(吹奏楽見聞録、まだ在庫あります。ぜひ読んでね→販売サイト(BOOTH))

 

ホーベンさんについては今までもちょこっとブログに書いてます。↓
VLAMOオープンファンファーレ選手権で演奏されるはずだった曲

 

ホーベンさんは「ヤン・ヴァンデルローストの教え子」という紹介のされ方もしている作曲家。同世代で同じくヴァンデルローストに教わっていた作曲家にベルト・アッペルモントなどもいますが、ホーベンさんが彼らとどこで一線を画すかって、とっくに彼自身が一流の音楽家として活躍してるのに、いまだに、隙あらばヤンさんを「私の先生」と慕い、「偉大なマエストロ」と呼び、「彼は現代の精神で作曲する方法を他の誰よりも知っている」とか言ってみたり、自分がブラスバンド選手権の課題曲を書くとなったらスコアを全部ヤンさんに見せてアドバイスをもらい、「この曲は間違いなくヒットするだろう」とほめられたことをインタビューで自慢したりするような男なんです彼は。師匠愛が強すぎる。(だいたいリンク参照)
Where Angels Fly | Kevin Houben – test piece Championship Section

 

そんなホーベンさんですが、作風・サウンドはオリジナリティに溢れています。常にやや仄暗い響き、心の内と外にどこまでも広がっていくようなコラール、どんなに輝かしいエンディングを迎えても完全なるハッピーエンドには終わらない感じが大好きです。
今日は彼が自身のブランド“Houben Editions”を立ち上げて以来初めてリリースしたCDの紹介を書きました。8曲中4曲はすでにYouTubeにも音源が投稿されているので合わせて掲載しています。

 

曲紹介に入る前に入手方法のご案内。
現在アルバムの配信はなく、販売サイトも限られています。日本のサイトではWBP Plus!で買えます。まだ在庫あるよ!
WBP Plus! Yahooショッピング店

 

 

Music Shop Europeからも個人輸入できるけど送料がCDと同じくらいするので単品購入はお勧めしません。何か買うものがあればついでに。
Guardian Angels | Band Music Shop

 

目次~曲一覧

 

守護天使 Guardian Angels

一番初めの曲にして、アルバムの中では一番演奏時間の長い、ハイグレードなコンサートピース。曲の構成だったり、タイトルだったり、何となく「天使の飛ぶところ」と共通するものを感じます。オルガンのトッカータみたいになる場面がここ数日ずっと頭から離れません。
この作品はオランダの牧師ベーラー(Louis Henri Bähler, 1838-1932)の伝説に基づいています。
ベーラーの一生について(NL)

***

ベーラーはキリスト教の「福音派」と呼ばれるムーヴメントに賛同し、教義や伝統様式を重んじるグループから敵視されるようになっていました。敵対するグループはついにベーラーの暗殺を計画します。帰宅途中の彼を襲い、水路で溺死させようと。
嵐の夜、ベーラーは町での説教から帰宅するところでした。暗殺実行犯が彼を待ち伏せしていましたが、ベーラーはずっと2人の男性に付き添われていたため、実行犯は計画をあきらめなければなりませんでした。
次の日、待ち伏せしていた男は(正直にも)ベーラーを訪ね、昨晩のことを話します。ベーラーは驚きました。だって、始めこそ信者に付き添ってもらっていたものの、途中から一人で帰っていたんですから。彼はこの出来事を、天使の加護だと考えました。

***

参考→Engelen beschermen predikant

 

光の筋 Ray of Light

 

リンブルフ州(ベルギー)の炭鉱の町を題材にした曲。初めて炭鉱に下りた炭鉱労働者たちの勇敢さと不安、常に崩落やガス中毒の危険にさらされる労働者たち、労働中に命を落とした彼らへのコラール、仕事を求めて異国からやってくる移民が作り出した多文化社会…様々な要素が物語仕立てで表現されています。クライマックスのマーチほど尊いものはないですね…。

 

太陽への舞踏 Dance into the Sun

 

マヨルカ島(スペイン)の吹奏楽団から委嘱された作品。「音楽とワインをつなごう」というプロジェクトを基にした曲で、この吹奏楽団のある町で作られるワイン”Castell de Santueri Rouge”と、マヨルカ島の晴れやすい気候の印象が曲に表現されています。「サントゥエリ城にて」”On Santueri Castle”という副題もこのワインの名前…の基になったマヨルカ島のサントゥエリ城から取られています。強い日差しのようなサウンド、雄大なメインテーマと軽快なルネサンス風のダンスの対比の虜になっています。

今月、オランダ/ベルギーのファンファーレ「リンブルフス・ファンファーレオルケスト」でファンファーレ版もお披露目されました。

 

 

未来の祝典 A Future Celebration

シント・ニクラース(ベルギー)にある吹奏楽団”De Toekomst”の125周年を記念して委嘱された作品。19世紀にテキスタイルとたばこ産業で栄えたシント・ニクラースと、町とともに成長してきた楽団を華やかに称えています。このアルバムの中では飛びぬけて爽やかで、幸せな雰囲気に満ち溢れた曲。特にアレグロに入ってからワクワクドキドキが止まりません!

 

隠された光 Hidden Light

オランダのファンファーレオルケスト“Eendracht Waubach”からの委嘱作品。この楽団に75年間奏者として、またボードメンバーとして参加し続けているレオ・クノーベン氏に贈られ、「仲間への忠誠心」“Loyalty among Friends”という副題がつけられています。
暗いところから徐々に優しく、明るい方へと向かっていくような雰囲気で、一番初めに聴いたときに連想したのはヴァンデルローストの「希望の歌」。ただ「希望の歌」が一方通行であったのに対し、「隠された光」は冒頭の重々しい音楽から華やかな音楽、優しい音楽を経て輝かしいクライマックスへと到達し、最後は一転して静かに幕を下ろします。このアルバムを初めて聴いたときに一番惹かれた作品。

 

アダージョ Adagio – Brahms Opus 40

ブラームスの「ホルン三重奏変ホ長調」の第3楽章“Adagio Mesto”を吹奏楽にアレンジした作品。ホーベンさんにあまり編曲作品のイメージがなかったのでちょっと驚きました。
「可能な限りオリジナルを尊重した」というオーケストレーションは“deep and dark”であると解説書には書かれています。実際聴いてみると冒頭と終盤こそかなり重々しい雰囲気であるものの、音楽が進むにつれて原曲より暖かく、包容力のあるサウンドになっていく印象を受けました。普段自分から編曲もの聴かないけれど、これは素晴らしいアレンジ。

 

光が消えるとき When the Lights Go Down

 

元々はリンブルフス・ファンファーレオルケストのために作曲された「リンブルフ・フリー」“Limburg Vrie”というファンファーレ作品からの抜粋で、第6楽章に相当します。ドラムスを含んでややポップス仕立てにされたコラール。
「リンブルフ・フリー」は第二次世界大戦の終戦75周年を記念するプロジェクトの一環で書かれた作品でした。最初(というか今日まで)この「光が沈むとき」が「リンブルフ・フリー」からの抜粋だと気付かずに聴いていたのですが、抜粋だと気付くとまた全然違う聴き方をしてしまいますね。中盤のドラムの強打とか…

 

 

審議の場 Fields of Deliberation

 

この曲も「リンブルフ・フリー」からの抜粋で、元々の第5楽章にあたる曲。このアルバムの中では比較的シネマティックな作りで、いやしかしどこまでもホーベンさんらしい音楽。ひとつ前の「光が沈むとき」も、もともと単独で演奏することを見越していたのかな…というくらい、一曲でも十分コンサートが華やかになる作品です。演奏時間も7分弱と、カットしなくてもコンクール出られる長さなんですね…!いいなあ。私がこれでコンクール出たいくらいだが。

ちょっと話ずれるけど、「審議の場」(リンブルフ・フリーの第5楽章)の後半で出てきた旋律が第7楽章でも使われるのですが、それと「未来の祝典」のモチーフがすごく似ていてドキドキしました。(他の曲からの引用っぽい音があると反応してしまう民)

 

YouTubeの音源を聴いてみて「もっと聴きたい!」と思ってくれた方のために、私がYouTube上のホーベン作品を片っ端から集めた再生リストのリンクを貼っておきます。特におすすめなのは「アバドン」“Abaddon”と「人生の約束」“Promise of Life”です!!

花月こころ

ベルギー近現代音楽が主な狩場。最推しはヴァンデルローストとポール・ジルソン。ブラスバンドでコルネット。

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