PORTRAIT OF THE SYNTHETISTS
4月から社会人になってます。
テレワーク不可能なお仕事なので毎日電車通勤です(一応時差通勤)。
週末も仕事の夢を見ました。明日仕事行きたくないです。
20世紀前半に活動していた「”フランス6人組”のベルギー版」ともいわれる作曲家集団、ザ・シンセティスツ(The Synthetists)のCDを買いました。
シンセティスツ発足は1925年。当時ベルギーの音楽教育者として人並外れた実績を持っていた作曲家ポール・ジルソンの60歳の誕生日の機会に、彼の教え子7名が集まりました。
「シンセティスツ」に参加したのはルネ・ベルニエ、ガストン・ブレンタ、テオ・デジョンカー、ロベルト・オトレ、モーリス・シューメーカー、ジュール・ストレンス、マルセル・ポート。
後にオトレがグループを去り、入れ替わるようにフランシス・ド=ブルギニョンが加わりました。
シンセティスツの活動趣旨は「音楽シーンの様々なトレンドを定義して投げかけること、統合”SYNTHESIZE”すること」。彼らは民衆の交響的な音楽―とりわけベルギーの音楽に対する関心を起こし、作品発表の場を設ける支援を得るため、雑誌”La Revue Musicale Belge”の発行を行いました。
さらにシンセティスツは当時のベルギー・ギィデ交響吹奏楽団の指揮者アルトゥール・プレヴォスト(Arthur Prevost)の支援で、大規模なコンサートホールで作品を発表する機会を得ました。
実は1932年前半まで、ベルギー・ギィデはオペラの管弦楽団以外ではベルギー唯一のプロフェッショナル・オーケストラだったのです。また、彼らの共通の師であるジルソンは「ベルギー吹奏楽の父」と呼ばれるほど吹奏楽作品の作曲に力を入れていたことから、シンセティスツのメンバーは自然に吹奏楽作品を作曲する機会が増えることになりました。
数回のグループ主催のコンサート後、シンセティスツは1931年には事実上解散し、メンバーはそれぞれの活動に専念してゆきました。自身の作曲活動をつづけながら、ある者は音楽院で教鞭をとり、ある者はオーケストラの指揮者になり、ある者はSABAM(ベルギーの著作権管理団体)の役員になり!
このCDに収録されている作品の多くが「シンセティスツ」としての活動中に発表されたものです。いずれの作品も、アメリカや日本の作品、また現代ヨーロッパの作品とも異なる、オールドでシックな、それでいて生き生きとした響きが非常に魅力的。
このブログを読んでいただいているあなたにも、是非「ベルギーとかいう思いもよらない国でこんなに早い時期からハイグレードな吹奏楽作品の模索が始まっていた」ことに驚いていただきたいです。
musicstore.jpで購入できます。多分まだ廃盤にはなっていないはず!
Paul Gilson
1曲目はシンセティスツの師・ポール・ジルソン(1865-1942)の「リチャード3世(Richard III)」。
この序曲はシェイクスピアの同名の悲劇を基に作曲されました。
【参考】530年の眠りから覚めたリチャード3世【Richard 3】- Onlineジャーニー
ワグネリアン(ワーグナー愛好家)であったジルソンらしい、まるで実在する歌劇の序曲のような華々しい作品です。
Gaston Brenta
2曲目はガストン・ブレンタ(1902-1969)の「ファンファーレ・エロイク(Fanfare héroïque)」。
トランペット3本、ホルン4本、トロンボーン3本、テューバ、打楽器によって演奏されるこのファンファーレは、第2次世界大戦の戦没者に捧げられています。
曲は力強いティンパニの独奏で幕を開けます。華々しいホルンの咆哮とラッパ隊のハーモニー。トランペットが奏でるバラードのような旋律。非常に重厚感のある、シリアスなファンファーレです。
Francis de Bourguignon
3曲目はフランシス・ド=ブルギニョン(1890-1961)の「ピアノ協奏曲(Concertino for piano and symphonic band opus 25)」。解説には「吹奏楽のためにオーケストレーションを作った」と書いてあるので、元はおそらく管弦楽伴奏の協奏曲だったのでしょう。
協奏曲は”allegro moderato” “trés lent” “allegro”の3楽章構成。ド=ブルギニョン自身元々ピアニストだったのもあり、ピアノ・ソロの効かせ方が非常に魅力的です。ウインドオーケストラのパワフルで厚い響きと、ピアノの知的な音色の思いもよらぬ相性の良さに驚いてください!
完全に余談ですが、同じく作曲家でピアニストのピート・スウェルツも吹奏楽伴奏のピアノ協奏曲「Wings」を書いていて、こちらもとってもカッコいいのでお時間あればYouTubeで探してみてくださいね。
Maurice Schoemaker
4曲目はモーリス・シューメーカー(1890-1964)の交響詩「ファイアーワークス(Feu d’Artifice – Fireworks)」。
この曲は、まず1922年に吹奏楽のために作曲され、1925年に管弦楽版が作られました。4発の花火を描写した、遊び心溢れる交響詩です。1発打ち上がるごとに「打ち上げのテーマ」が流れるのが面白い…!
René Bernier
5曲目はルネ・ベルニエ(1905-1984)の「スヘルデ川の前の墓(Le Tonbeau devant l’Escaut)」。
ベルギー出身の詩人エミール・ヴェルハーレン(Emile Verhaeren, 1855-1916)の詩”L’Escaut(スヘルデ川)”を題材に書かれた曲です。
この詩には「運命が私に降りかかる日、私の体はあなたの土の中に、あなたの岸辺の隣に隠される、死んでもなお、あなたを感じられるように。」と言う一節があり、死後は故郷に眠りたいというヴェルハーレンの願いが現れてます。
ヴェルハーレンはアントウェルペン州に生まれ、フランス詩壇で活躍していました。61歳の時、列車の事故で命を落とし、故郷のアントウェルペン州シント・アマンス、スヘルデ川のそばに埋葬されました。
エミール・ヴェルハーレン(Wikipedia)
アントウェルペンを滔々と流れるスヘルデ川の様子が目に浮かぶような壮大さ、死者をしのぶような思いが感じられる静けさを兼ね備えた逸品。本CDの中で1番のお気に入りです。
元々の編成は管弦楽で、フランスの作曲家・指揮者のジュール・セムラー=コレリー(Jules Semler-Collery, 1902-1988)が吹奏楽版のオーケストレーションを作成しました。
Théo Dejoncker
6曲目はテオ・デジョンカー(1894-1964)の「チャールズ・ストラットン(Charles Stratton)」。
チャールズ・ストラットン(1838-1883)は「グレイテスト・ショーマン」としても知られる興行師P.T.バーナムの下で「親指トム将軍」を演じていたサーカスのパフォーマー。
ストラットンがサーカスで活躍している雰囲気が、軽快でリズミカルな曲調に表現されています。
オステンドの軍楽隊などで指揮者を務めていたコンスタント・モロー(Constant Moreau, 1891-1975)が吹奏楽のためのオーケストレーションを作りました。モロー自身、ジルソンから音楽理論・作曲のプライベートレッスンを受け、シンセティスツの作品のみの演奏会を開いたこともあったそうです。コンスタント・モロー(オランダ語版Wikipedia)
Jules Strens
7曲目はジュール・ストレンス(1892-1971)の「綱渡りの踊り(Danse Funambulesque)」。このCDに収録されている作品の中では唯一「往年の吹奏楽ファンなら知ってる人もそこそこいるかな…」レベルの知名度でしょうか。他は本当に調べても出てこない。
綱渡りを始めるときの静寂、踊りのスリルと迫力、荒々しさが音楽的に非常によく描かれています。フローラン・シュミットの「ディオニソスの祭り」やアレクサンドル・コスミッキ作品が好きな方はハマるかも。フランスっぽいのかな。
Marcel Poot
8曲目、9曲目はマルセル・ポート(1901-1988)の「ジャズ・ミュージック(Jazz Music)」、「協奏的幻想曲(Fantasia Concertante)」。かなりヘビーな収録曲のラストに聴くのにふさわしい、デザートのような小品2曲。
ポートは若かりし頃ジャズを好んで聴いていたようで、「ジャズ・ミュージック」は後に映画音楽なども手掛けるポートらしい、楽しい気持ちになるショートピースです。
「協奏的幻想曲」も和訳すると結構ごつく感じてしまうタイトルですが、軽快でちょっとおどけた一品。ポートの作品は吹奏楽だろうが交響曲だろうが比較的ライトで聴きやすい曲調が特徴的です。
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